全国家庭顕微鏡普及協会

第3部
第3話 名医も顔負け!? 蚊の神業テクニック

画像 蚊

これが今回観察してみた蚊。こいつにしてみたら人間の皮膚ってかなり分厚くて、突き破って血管までたどり着くのは大変なことだと思うのだけど…?

「この間お昼寝をしていて、目が覚めて台所に行くと、お母さんが私の顔を見てびっくりしているんです。
と思うと今度はゲタゲタ笑い出して…。
鏡を見て私もびっくり! 目がボクサーみたいに腫れていたんです。
どうやら寝ている間に蚊に刺されたみたい。
おかげで腫れがひくまで恥ずかしくて外には出られませんでした。
それにしても憎き蚊の奴め!
寝ていたとはいえ、いったいどうやって気づかれずにまぶたなんか刺していったんでしょう?
それとも私が特別鈍いのでしょうか?
顕微鏡の力で何とか解明してもらえませんか」

これは香取千子さん(中1)から全国家庭顕微鏡普及協会にいただいたお手紙です。
確かに注射はあんなに痛いのに、蚊はいとも簡単に血を吸っていきますよね。
しかもその痕が腫れたり痒かったりと余計なこともしていきます。
今回はその謎に顕微鏡で迫ってみましょう。

今回はこんな“裏ワザ”を

画像 顕微鏡

実験に入る前に、ちょっと“裏ワザ”を紹介。
反射鏡や透過用の照明は使わず、白色LEDなど熱くなりにくく明るい照明を用意します(白色LEDは懐中電灯やキーホルダー型ライトなどに使われています)。
これを使って見たい物の斜め上から強い光を当てることによって、表面を高い倍率で観察することができます。

蚊取り線香のそばに落ちていた蚊を、まずは観察

画像 蚊の頭部

蚊の頭。大きな触角で動物の吐き出す二酸化炭素をキャッチして、血を吸いにやってくる。目は小さな目がたくさん集まった複眼だ(約200倍)。

画像 蚊の口吻

蚊の口吻。全体的に見るととがった針のようだが、実は「さや」を含めて7本の道具がたばになっている(約200倍)。

落ちている蚊をピンセットでつまんで顕微鏡のステージへ。
血を「吸う」というからには、蚊はストローとか注射針みたいなものを持っているに違いない…。
思ったとおり、蚊は口の先にピンととがった針のようなものを持っていました。
でもよーく見ると、注射針とはちょっと違うようです。
鋭くとがってもいないし、とてもこれで人に気づかれずにスーッと刺せるとは思えないのですが。
それになんだかたくさんの細い道具が集まっているようにも見えます。


画像 血を吸う管の先端

「さや」から取り出した、血を吸う管の先端。鋭くとがっているうえに、太さは約80⁄1000mmという超マイクロサイズ! (約200倍)

画像 さやの中

さやの中には、こんな感じで道具が束になって収まっている。細くて鋭い裁縫針と比べると、こんなに細い(約200倍)。

1本に見えた針には実は“7つ道具”が隠されていました。
ナイフのような大あごが2本、ギザギザのノコギリ状の小あごが2本、血を吸い上げる管(上唇)と血を固まりにくくする液を注射する針(のどの一部)、これらの管を支えるさや(下唇)がそれぞれ1本の合計7本!
ここまで判別するには、400倍ぐらいまで見える顕微鏡が必要になります。
さて、ここまで観察したのはいいですが、蚊はこれだけ複雑な道具をいったいどうやって使いこなすのでしょう?
ますます人間に気づかれずに目的を果たす(血を吸う)のは難しいような気がしてきました…?

蚊は麻酔もメスも使いこなすテクニシャン!?

実は、蚊のとがった口は「口吻(こうふん)」といって「くちばし」に近いもの。
顕微鏡で見た通りにいくつもの細い道具が集まってできています。
血を吸うときも、いきなり針をブスリッと刺すのではなく、これだけの仕事をしていたのです。

  1. 人間の皮膚にとまる
  2. ナイフとノコギリで皮膚の表面を切りさき、皮膚の下にある細い血管まで針と管をさし込む
  3. 針から血を固まりにくくする液を出す
  4. 管を使って血を吸い込む

…と、採血のように血を吸うというよりはむしろ手術をしているのに近い行動。
蚊の針は注射針などに比べてはるかに細い上、しなやかですべりの良い「キチン」という物質でできています。
このため皮膚を大きく傷つけることがなく、また細いために神経にぶつかる確率がとても低いのです。
さらに刺すときに大あごのナイフや小あごのノコギリを細かく振動させ、細胞と細胞の間を押し開くようにして針をさし込むので、細胞が傷つきにくいという利点も。
また(3)の液(蚊の唾液)には血を固まりにくくする成分のほか、痛みをやわらげる麻酔の成分も混ざっています。
これらによって相手に痛みを感じさせずに、叩かれたり追い払われないようにして血を吸っているというわけです。
これだけのことをあの小さな体でやってのけるなんて、蚊の奴もなかなかやるものです。
香取さんには悪いけれど、ちょっと感心してしまいました。
ちなみに、蚊は普段、樹液や花の蜜などを主食にしています。
産卵が近づくと、卵を成熟させるための特別な栄養として動物やヒトの血を吸います。
だから血を吸うのはメスだけです。
香取さんのまぶたから栄養を得た蚊のお母さんは、どこかで丈夫な子を産んだことでしょう。
そう思うと、刺された悔しさもちょっと和らぎませんか?(笑)

いろいろな昆虫の観察スケッチを描こう

スケッチ 家バエの足の先

顕微鏡スケッチ「家バエの足の先」

皆さんは顕微鏡で見た画像をスケッチしたことありますか?
風景の写生と同様、かなりよく見ないと描けないだけに、観察する力も同時に養える方法なのです。
この機会にいろいろな昆虫を顕微鏡で観察してスケッチしてみましょう。
蚊の口吻から注射針を開発したように、昆虫の小さな体に秘められた仕組みを観察することで、世界が驚く発明ができるかもしれませんよ!!

待望! 蚊のように痛くない注射針

画像 SC-700

<オススメ顕微鏡>
SC-700
学校の理科室でよく見かけるスタンダードタイプ。シンプルで扱いやすく、オプションパーツ(別売)のアダプターでカメラを接続すれば、顕微鏡写真の撮影も可能。

商品詳細

近年、蚊の持っている「痛くない針」のメカニズムをまねた画期的な注射針が開発されました。
関西大工学部の青柳誠司教授と兵庫県の「ライトニックス」社が共同開発した「医療用マイクロ注射針」がそれです。
開発された針は太さ85 ⁄ 1,000mmと、蚊の針に近い細さ。
材料は手術用の糸などに使われるポリ乳酸で、蚊の針のようにしなやかで表面も滑らか。
しかも蚊のナイフやノコギリと同じように、細かく振動させることで細胞を傷つけずに皮膚に刺すことができるため、ほとんど痛みを感じずに注射ができます。
今のところ、ごくわずかの薬を中に閉じこめ、体内で分解されて薬を患部に届けるような方法で使われています。
多量の薬を注入できるような針は今後の課題ですが、実現すれば糖尿病治療などで頻繁に注射を打たなければならない患者さんの苦痛を減らせるだけでなく、注射の痛みやショックで起こる障害などもなくせるので、医療の現場で期待が高まっています。

科学情報誌「So-TEN-Ken」Vol.23より転載。

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